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鹿児島地方裁判所 昭和38年(ワ)55号 判決 1965年1月27日

原告 中原清隆

被告 株式会社日米堂 外一名

主文

被告株式会社日米堂は、原告に対し、金一六万円およびこれに対する昭和三八年三月七日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

被告日興恩給株式会社に対する原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告と被告株式会杜日米堂との間に生じた分は同被告の負担とし、原告と被告日興恩給株式会社との間に生じた分は原告の負担とする。

この判決は、第一項にかぎり仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、請求の趣旨

被告らは、原告に対し、各自金一六万円およびこれに対する昭和三八年三月七日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二、被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、事実上の主張

一、請求原因

(一)  原告は宅地建物取引業者である。

(二)  原告は、昭和三六年一一月一二日頃被告株式会社日米堂(以下被告日米堂という)から同被告の所有する別紙<省略>土地建物(以下本件土地建物という)の売却の斡旋を依頼されていたところ、同年一二月二六日頃被告日興恩給株式会社(以下被告日興恩給という)から訴外寺薗三雄を介し店舗用土地建物の買入斡旋を依頼されたので、被告ら間に本件土地建物の売買を斡旋した結果、同三七年三月二日代金四〇〇万円でその売買が成立した。

(三)  鹿児島県規則第五一号によれば、宅地建物取引業者が宅地建物の売買を斡旋した場合の報酬額は、取引金額一〇〇万円以下の部分につき売主買主双方から各一〇〇分の五以内、一〇〇万円を超え三〇〇万円以下の部分につき同様一〇〇分の四以内、三〇〇万円を超える部分につき同様一〇〇分の三以内と定められているが、業界では、業者の斡旋により売買が成立したときは、報酬に関して格別の約定がない場合でも、業者は依頼者に対し右規則の定める最高額の報酬を請求することができる慣習がある。したがつて、本件の場合、被告らは原告に対し、各自金一六万円の報酬を支払う義務がある。

(四)  よつて、被告らに対し、各自金一六万円とこれに対する訴状送達の日の後である昭和三八年三月七日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、被告らの答弁

請求原因(一)は不知。同(二)のうち被告ら間に代金四〇〇万円で本件土地建物の売買が成立したことは認めるが、その余は否認。同(三)は不知。

第三、証拠<省略>

理由

一、成立に争いのない甲第一、二号証、証人寺薗三雄、同浜川勝一の各証言、原告本人尋問の結果を綜合すると、次の事実を認めることができる。

法定の登録を受けた宅地建物取引業者である原告は、昭和三六年九月頃被告日米堂から県庁前にある同被告所有の本件土地建物について売却の斡旋を依頼されていたところ、同年一二月知人の訴外寺薗三雄(宅地建物取引業者ではない)から、同人が被告日興恩給から県庁前あたりに貸店舗か土地付の売家を探してもらいたい旨依頼されていることをきいたので、本件土地建物とその向いにあるほか一箇所の土地が売りに出ていることを教え、翌三七年一月下旬同人をその所在地に案内した。そこで、寺薗は、被告日興恩給の鹿児島営業所長浜川勝一に本件土地建物とその向いの土地を見せ、これを同被告に紹介したところ、浜川は本件土地建物を買うことに乗気であつた。これを寺薗からきいた原告は、被告日米堂に日興恩給という買手がついた旨知らせるとともに、寺薗と連絡をとりつゝ被告日興恩給が買い受けることに期待をかけ、また寺薗もその後浜川をたずねて同被告会社の意向をたしかめるなどしていたが、かくする間に、被告らはひそかに直接交渉をはじめ、原告と寺薗に対しては間もなくそれぞれいつわりの口実をいつて斡旋をことわり、その後に原告らの斡旋とは関係なく売買が成立した形にしようとして同年三月二日付をもつて代金四〇〇万円で直接売買契約を締結した。

右の事実が認められ(但し売買成立の事実は争いがない)、これに反する証人浜川勝一の証言、被告日米堂代表者本人尋問の結果はたやすく措信できないし、また原告が寺薗を通じて被告日興恩給からも売買の斡旋を依頼されていた旨の原告の主張もこれを認めるに足りる確証がない(これに符合するかのような原告本人の供述はその根拠が明らかでない)。

以上の事実によれば、原告は被告日米堂から依頼を受けて買手方被告日興恩給の仲介者である寺薗と本件土地建物の売買を斡旋したものであり、前示のような事情により契約の締結自体には関与しえなかつたにせよ、その斡旋が前記契約成立の一機縁となつたことは十分窺うことができる。

二、成立に争いのない甲第三号証と鑑定の結果によれば、鹿児島県下の宅地建物取引業界においては、業者が当事者の依頼を受けて宅地建物の売買を斡旋し、契約成立の機縁をつくつたのち、当事者が業者を除外して直接交渉を進め売買が成立したような場合には、報酬についての特約その他特別の事情のないかぎり、業者は依頼者に対し、鹿児島県規則第五一号の定める最高額の報酬を請求することができる慣行があり、かつ同規則の報酬額の定めは原告主張のとおりであることが認められ、本件において当事者間に右の慣行によらない約定または特別の事情があつたことの証拠はない。したがつて、原告に対する依頼者である被告日米堂は、原告に対し、本件取引額四〇〇万円について右規則によつて算定した金一六万円の報酬を支払うべき義務がある。

三、次に、被告日興恩給は原告に売買の斡旋を依頼したものではなく、寺薗に依頼していたものであることは前認定のとおりであり、また両名間に報酬の特約があつたことの証拠もない。一般に、売買の両当事者がそれぞれ仲介者を依頼し、仲介者同志が連絡しあつて斡旋した結果、売買が成立したという場合に、一方の仲介者が依頼を受けない他方の当事者に対してもその依頼を受けた仲介者と共同で報酬請求権を取得することを認めるべきかどうかについては議論の余地があるが、少くとも本件のように一方当事者の依頼した仲介者が非業者でその間に報酬についての約定もないため、その仲介者自身がその依頼者に対して報酬請求権を有しないようなときは、他方の仲介者も(業者であると否とを問わず)右の当事者に対しては報酬を請求することができないと解するのが相当である。そうだとすれば、原告の被告日興恩給に対する請求は失当といわなければならない。

四、以上の理由により、原告の本訴請求のうち、被告日米堂に対し金一六万円とこれに対する本訴状が同被告に送達された日の後であること記録上明らかな昭和三八年三月七日から完済まで商事法定利率年六分の場合による遅延損害金の支払を求める請求は正当として認容すべきであるが、被告日興恩給に対する請求はこれを棄却することとしし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤繁)

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